ICH E9

中間事象とは何か

以前「Estimandを理解するために」という記事で、Estimandについて解説いたしました。Esimandを構成する5つの要素の中に、中間事象という言葉が出てきたかと思います。中間事象を理解していくことはEstimandを設定していく際に必要となるので、今回は中間事象とそれに対応するストラテジーを紹介していこうと思います。
Estimandの解説は下記で紹介しているので、興味ある方は一読ください。

Estimandを理解するためにICH E9(R1)ガイドラインが2019年にリリースされてからEstimandという言葉をよく聞くようになったかと思いますが、ガイドラインを読み解くだけでは理解しづらい部分もあるかと思います。そのため、Estimandとは何かを説明していこうと思います。...

中間事象とは

中間事象

治療開始後に発現し、関心のある臨床的疑問に関連した変数の測定を不可能とする事象変数を試験治療の効果として解釈する際に影響を与える事象

中間事象発言後の存在しないまたは意味がないデータと欠測データ(規定したestimandの解析に対して意味があると考えられるが、収集されなかったデータ)は区別する必要があります。

中間事象を取り扱うストラテジー

上述のように中間事象が発現すると変数の測定が不可能になったり、治療効果の解釈に影響を与えたりします。したがって、Estimandを設定する際には中間事象に対して対処が必要となり、その方針をストラテジーと呼びます。これからはICH E9(R1)において明示された主要なストラテジー解説していきます。他にもいくつかありますが、今回は自分がよく見る4つのストラテジーを紹介していこうと思います。

治療方針ストラテジー

関心のある治療効果の定義において中間事象の発現の有無を考慮しない。すなわち関心のある変数の値は、中間事象が発現したかに関わらず、解析に使用される。

  • 中間事象発現後もデータを収集する必要がある
  • 全被験者の評価時点の変数データを収集することができれば、最小限の仮定で推定できる

具体例

以下の事例では、レスキュー薬の使用を中間事象として、治療方針ストラテジーで適用した場合を考える。

  • Patient1:レスキュー薬を使用していない(中間事象が発現していない)ため、評価時点の値を変数の値とする
  • Patient2:治療期間中にレスキュー薬が使用され(中間事象が発現した)、その後もデータ収集を継続し、評価時点の値を変数の値とする
  • Patient3:レスキュー薬を使用していない(中間事象が発現していない)が、Lost to follow up のため、評価時点の変数の値は欠測値として扱う

仮想ストラテジー

中間事象が起きないという仮想的な状況を想定して治療効果を推定する。

  • 中間事象発現後のデータは収集する必要がない
  • 仮想的な状況で観測されたであろう値を仮定を用いた解析
  • 仮想的な状況を想定することの妥当性を検討する必要がある

具体例

以下の事例では、レスキュー薬の使用を中間事象として、仮想ストラテジーで適用して「レスキュー薬を使用しない」と仮定した場合を考える。

  • Patient1:レスキュー薬を使用していない(中間事象が発現していない)ため、評価時点の値を変数と値とする
  • Patient2:治療期間中にレスキュー薬が使用され(中間事象が発現した)ため、中間事象発現前までのデータを使用する

複合変数ストラテジー

中間事象の発現自体を「変数」の一部に組み込むことで対応するストラテジーである。

  • 本来の変数が完全に確認されなくても、補完やモデル化、関連する仮定を必要とせず解析を行える可能性がある
  • 臨床的に解釈可能な変数の定義(反応例の基準等)、適切な集団レベルでの要約(割合の差やオッズ比)が利用できれば臨床的に重要で解釈可能

具体例

以下の事例では、レスキュー薬の使用を中間事象として、複合変数ストラテジーを適用した場合を考える。変数(エンドポイント)は治療の成功・失敗の二値変数であり、レスキュー薬を使用の使用は治療の失敗として扱う。

  • Patient1:レスキュー薬を使用していない(中間事象が発現していない)かつ臨床的に意義のある変化が認められたため、治療の成功となる
  • Patient2:治療期間中にレスキュー薬が使用され(中間事象が発現した)たため、治療の失敗となる
  • Patient3:レスキュー薬を使用していない(中間事象が発現していない)が、臨床的に意義のある変化が認められなかったため、治療の失敗となる

治療下ストラテジー

中間事象発現前までの治療に対する反応に関心がある場合に用いられる。

中間事象の発現とその時期が治療に関連する場合、治療効果の推定にはより強い仮定が必要となる。

具体例

以下の事例では、レスキュー薬の使用を中間事象として、治療下ストラテジーを適用した場合を考える。

  • Patient1:レスキュー薬を使用していない(中間事象が発現していない)ため、評価時点の値を変数と値とする
  • Patient2:治療期間中にレスキュー薬が使用され(中間事象が発現した)ため、レスキュー薬を使用時点までの値を用いて変数の値を決定する

まとめ

今回は中間事象とそれに対応するストラテジーを紹介していきました。Estimandを構成する要素の一つである中間事象は試験治療の効果として解釈する際に影響を与える事象であるため、中間事象の特定や検討が重要となります。中間事象が決定した後は、臨床的な意義や臨床現場での状況を鑑みてどのストラテジーを適用するのがよいか検討していくことが大事になっていきます。

参照

2023年 ”Estimandの治験実施計画書への実装”|日本製薬工業協会 医薬品評価委員会
データサイエンス部会2022年度 継続タスクフォース4

2018年 ”ICH-E9(R1)の経緯、現状と今後の展望”|医薬品医療機器総合機構スペシャリスト(生物統計担当) 安藤 友紀

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tomokichi
外資系製薬会社で生物統計家として働ている1児のパパ。生物統計家とは何か、どのようなスキルが必要か、何を行っているのかを共有していきたいと思っております!生物統計に関する最新情報を皆様にお届けすべく、日々奮闘中です。趣味は筋トレ、温泉巡り、家族と散歩。