ICH E9(R1)ガイドラインが2019年にリリースされてから約4年、2024年6月にもPMDAから国内通知(Step 5)が発出され、estimandという言葉をよく聞くようになったかと思います。しかし、estimandの設定や中間事象、感度分析といった内容の理解が難しいと感じることがあります。そのため、一緒にEstimandについて読み解いていければと考えております。
ICH E9(R1)の目的
ICH E9(R1)が提案された目的は下記となります。
- 臨床試験の計画、デザイン、実施、解析及び解釈に関する構造化されたフレームワークの導入
- Estimandの構成による治療効果の説明の明確化
- 臨床的疑問を反映すべき中間事象の想定
- 中間事象に対応するストラテジーの導入
- Estimandに整合した主要な統計解析に基づく結論の安定性を検討する感度分析の明確化
提案されたフレームワーク

ICH E9(R1)で提案された、試験の目的に対して、推定の対象、推定の方法及び感度分析のフレームワークとなります。
- 試験の目的:関心のある臨床的疑問を反映する
- Estimand:試験の目的に対する推定の対象を定義する
- 主とする推定量:推定値が算出される解析方法を示す
- 感度分析:主とする推定量による推測について、その過程からのずれに対する安定性を調べる
試験の目的からestimandと推定量の選択を行っていく
(上から選択していく)
主とする推定量から試験の目的を定義していくこと
(下から選択していく)
このフレームワークを十分に理解することにより、下記のような議論ができることを期待されております。
この疾患に対する臨床試験では効果不十分による治療投与中止例が出てきますが、これは臨床現場でも起こると考えられます。また、この疾患に対しては治療ガイドラインもありますので、次の薬がある程度決まっております。
それなら、「この疾患に対して標準治療にこの新薬が投与されたときにどのような有効性が得られるのか」という評価をしていくのが、重要な情報となるかと思います。
そうであれば、今回の臨床試験では「治験薬の投与中止の影響も含めて、その薬剤による治療を開始したことで得られる治療効果」を評価しましょう。
このように各担当者がEstimandに関するフレームワークを理解すれば、開発現場で活発な議論ができるようになるため、ICH E9(R1)やEstimand、感度分析に関する理解は重要となります。
Estimandを構成する5つの要素
Estimandは以下の5つの要素から構成されます。
- 関心のある治療:試験において被験者が受ける治療(介入)
- 対象集団:臨床的疑問に対する対象となる被験者集団
- 変数:試験において臨床的な疑問に答える際に必要となる被験者ごとに得られる測定値や評価尺度の値
- その他の中間事象:治療開始後に発現し、関心のある臨床的疑問に関連した変数の測定を不可能とする事象や変数を試験治療の効果として解釈する際に影響を与える事象
- 集団レベルの変数要約:試験において治療を比較するための指標であり、集団レベルでの変数の要約方法(i.e. 平均値の群間差 )
まとめ
今回はEstimandに関する文書のICH E9(R1)の目的やEstimand、提案されたフレームワーク、Estimandを構成する5つの要素について記載いたしました。ICH E9(R1)ガイドラインを読んでいきなり理解することは難しいかと思いますので、本ブログが少しでも助力となれば幸いです。
今後は中間事象や感度分析、各ストラテジーに対応する統計解析について、記事を書いていこうと思います。