はじめに

生存時間解析といえば、ハザード比(Hazard Ratio)が長らく中心的な評価指標として使われてきました。しかし近年、免疫チェックポイント阻害薬などの新しい治療法の登場により、生存曲線が交差する・比例ハザード性が成り立たないといった状況が増えています。
こうした背景から注目されているのが、RMST(Restricted Mean Survival Time:制限付き平均生存時間)です。
本記事では、RMSTの基礎から数式、図解、他指標との違いまでを体系的に整理し、初学者にも実務者にも理解しやすい形でまとめます。

生存時間型応答の評価指標とは?

生存時間解析では、以下のような指標がよく使われます。

指標内容特徴
時点生存割合 S(t)ある時点 t に生存している割合直感的だが1時点の情報しか使わない
生存時間中央値生存割合が50%に達する時間外れ値に強いが中央値が得られないこともある
ハザード比(HR)イベント発生率の比比例ハザード性が必要
平均生存時間生存曲線の全面積打ち切りがあると推定困難
RMST境界時間 t までの生存曲線下面積モデルに依存せず、PH仮定不要

これらのうち、RMSTは「生存曲線の形状が複雑でも安定して解釈できる」という点で注目されています。

RMSTとは何か?直感的に理解する

RMSTの定義

生存時間を\( T\)、境界時間(制限時間)を \(\tau\) とすると、

\[X(\tau )=\min (T,\tau )\]

この \(X(\tau )\) の平均値が RMST です。

\[\mu (\tau )=E[X(\tau )]=E[\min (T,\tau )]\]

RMST = 生存曲線 S(t) の 0 〜 τ までの面積

つまり、

\[\mu (\tau )=\int _0^{\tau }S(t)\, dt\]

という非常にシンプルな量です。

RMSTの数式的性質

■ RMSTの基本式

生存関数 S(t) を用いると、

\[\mu (\tau )=\int _0^{\tau }S(t)\, dt\]

これは「境界時間 τ までに期待される平均生存期間」を意味します。

■ RMSTの分散

必要症例数設計などで重要となるのが分散です。

まず、

\[E[X^2(\tau )]=\int _0^{\tau }t^2f(t)\, dt+\tau ^2S(\tau )\]

これを用いて分散は、

\[\mathrm{Var}[X(\tau )]=E[X^2(\tau )]-\mu (\tau )^2\]

と求められます。

■ パラメトリック分布を仮定した場合(指数分布)

生存時間が指数分布(ハザード λ)に従うと仮定すると、

\[S(t)=e^{-\lambda t}\]

このとき RMST は閉じた形で書けます。

\[\mu (\tau )=\frac{1-e^{-\lambda \tau }}{\lambda }\]

分散は、

\[\mathrm{Var}[X(\tau )]=\frac{1-e^{-2\lambda \tau }}{\lambda ^2}-\mu (\tau )^2\]

指数分布は単純ですが、RMSTの性質を理解する上で良い教材になります。

RMSTは何を評価しているのか?

■ ハザード比との違い

指標何を比較しているか前提
ハザード比イベント発生率の比比例ハザード性(PH)が必要
RMST差平均生存期間の差PH仮定不要

RMSTは生存曲線の形状が複雑でも、交差していても、遅延効果があっても問題なく解釈できます。

■ RMSTの臨床的解釈

例:境界時間 τ = 4年
RMST = 1.2年(治療群)
RMST = 0.9年(対照群)

治療群は4年間で平均0.3年(約3.6ヶ月)長く生存した

このように、時間の差として解釈できる点が大きな魅力です。

RMSTが注目される理由

  1. 比例ハザード性が不要
    免疫療法では「遅延効果」「生存曲線の交差」が頻発します。HRでは解釈が難しい状況でも、RMSTは安定して使えます。
  2. モデルに依存しない
    Kaplan–Meier曲線を積分するだけで推定できるため、パラメトリックモデルの仮定が不要です。
  3. 時点生存割合より情報量が多い
    時点生存割合は1点の情報しか使いませんが、RMSTは曲線全体の情報を統合します。
  4. 臨床的に解釈しやすい
    「平均で何ヶ月長く生存したか」という形で説明でき、医師・患者・規制当局にとって理解しやすい指標です。

RMSTの実務上のポイント

■ 境界時間 τ の設定が重要

RMSTは「どこまで積分するか」を決める必要があります。

一般的には、

  • 両群の生存曲線が十分に観測されている範囲
  • 打ち切りが少ない範囲
  • 臨床的に意味のある期間

が選ばれます。

■ RMST差とRMST比

治療効果の比較には、

  • RMST差(μ₁(τ) − μ₀(τ))
  • RMST比(μ₁(τ) / μ₀(τ))

の2種類があります。

臨床的には「差」の方が解釈しやすいことが多いです。

まとめ

RMST(制限付き平均生存時間)は、生存曲線の形状に左右されず、治療効果を安定的に評価できる新しい指標です。従来のハザード比では困難だった、免疫療法などで生じる遅延効果や生存曲線の交差にも対応可能で、比例ハザード性の仮定が不要です。モデルに依存せず、Kaplan-Meier曲線の面積として直感的に解釈できるため、臨床現場でも理解しやすく、時点生存割合よりも多くの情報を活用できます。今後、RMSTは生存時間解析の標準指標として重要性を増すでしょう。

参考資料

生存時間型応答の評価指標(第2版)RMST (restricted mean survival time)を理解する
(医薬品評価委員会 データサイエンス部会)
https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/rmst.html

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tomokichi
外資系製薬会社で生物統計家として働ている1児のパパ。生物統計家とは何か、どのようなスキルが必要か、何を行っているのかを共有していきたいと思っております!生物統計に関する最新情報を皆様にお届けすべく、日々奮闘中です。趣味は筋トレ、温泉巡り、家族と散歩。