統計学、生物統計の知識や経験を活かせる業種として製薬企業で生物統計家として働くことが選択肢が一つしてあります。そこで今回は製薬企業で働いていく生物統計家の業務内容、必要だと考えられる力、現在も自分が製薬企業で働いていますのでそこで感じたメリット等を紹介していこうと思います。
製薬企業で働く生物統計家の業務
生物統計家の業務は下記があります。
生物統計家の業務
- 臨床試験デザイン:統計学的観点から、効率的な臨床試験デザインを立案し、新薬の早期上市に貢献します。また治験実施計画書(プロトコル)の作成の際には、統計に関する内容(サンプルサイズの設定、Estimandの検討、統計解析等)をサポートすることが求められます。
- 統計解析業務:臨床試験で得られたデータを統計解析ソフトウェア(R言語やSAS等)を用いて解析し、帳票を作成します。また、得られた結果に対して、どのような結果が得られたのか解釈を与えることも求められます。
- 報告書の作成:臨床試験から得られた結果をもとに新薬の承認を規制当局から得るために、臨床試験報告書や総括報告書を作成します。
- 規制当局への対応:開発品に関する統計解析結果を規制当局に提出した後、規制当局から照会事項といった質問事項が来ます。それらの承認申請をサポートする業務も必要となります。
- 社内外との連携:臨床開発部門、データマネジメント部門、メディカル部門といった社内外の関係者と連携して業務を進めます。特に統計的な観点からの意見が求められることがあります。
照会事項とは主に医薬品の承認審査において、規制当局の審査官が申請者(製薬会社など)に対して提出された資料の内容について不明な点や追加で確認したい点を質問する際に用いられる文書のことです。追加で解析帳票が必要であったり、更なる考察が求められることがあります。
求められるスキル
製薬企業で働く生物統計家に求められるスキルとして以下があるかと思います。
- 統計解析スキル:統計学や統計理論の知識に加えて、その知識を下にSASやRなどの統計解析ソフトを使用できるスキルが求めれらます。
- 臨床試験に関する知識:GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)に関する知識、臨床試験のプロセスに関する理解が必要となります。
- コミュニケーション能力:臨床開発チームや社内外の関係者と円滑にコミュニケーションできる能力が必要です。
- 統計や製薬関連に関する興味:個人的に一番必要なスキルと感じます。統計関連の学会や製薬関連の最新情報等を積極的に情報収集することが必要となります。そのため、常にアンテナを張り
- 語学力:外資系製薬企業では、英語でのコミュニケーション能力も求められます。内資系製薬会社でもアメリカや欧州で新薬を申請する際には英語力が必要となります。
製薬企業で働くメリット
- 専門性を活かせる:
大学やこれまでの業務で培ってきた統計解析の専門知識を活かして、医薬品開発の重要な局面で貢献できるかと思います。 - 社会貢献の実感:
個人的に自分が一番感じたメリットです!製薬会社は、人々の健康に貢献できるという強い社会貢献性を感じられる仕事です。新薬の開発や医薬品の提供を通じて、人々の生活の質を向上させることに貢献できます。 - キャリアアップの機会:
専門性を高め、マネジメントやコンサルティングなど、より高度な業務に携わることも可能です。そのため、同業他社への転職の際にはアドバンテージになるかと思います。 - グローバルな活躍:
外資系製薬会社や内資系製薬会社でも海外へ事業を展開している場合、グローバルな視点での業務経験を積むことができます。海外の人とも働く機会がある可能性があるので、英語での会議といった英語力もつきます。 - 高収入/充実した福利厚生:
製薬会社は一般的に平均年収が高く、特に大手企業では薬剤師以外にも高水準の給与が期待できます。また、ワークライフバランスを重視した業界である傾向が高いため、住宅手当、家族手当、退職金制度などが充実した福利厚生が整っていることが多いかと思います。 - 長期的に臨床試験に携わることができる:
長期的な開発計画に携わりながら、一貫性あるデータ戦略を構築できる点が大きなやりがいのひとつです。そのため、第1相試験の計画から新薬の上市まで長い期間携わることができます。 - 疾患領域への深い理解:
前回の記事で紹介したCRO(開発業務受託機関)と比較すると、製薬企業での統計家は、特定の治療領域に長く関与しやすく、疾患理解の深度が深まる傾向があります。(下記に記事を載せておきます。)

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まとめ
今回は製薬企業で働く生物統計家の業務内容、必要だと考えられる力、そこで感じたメリットを紹介していきました。統計と聞くと「数式の世界」と思われがちですが、実際には「誰に、どのような治療を届けるか」を考える、極めて人間的な仕事です。そして、製薬企業における統計家は、医薬品という命に関わる製品の開発を、科学の力で正しく導く「羅針盤」としての存在なのです。統計の知識を活かして社会貢献したい方、医療に携わりたい方にとって、製薬企業での生物統計家の仕事は、非常に魅力的なキャリアパスになるかと思います。