はじめに
医薬品開発の現場で「生物統計家(Biostatistician)」は、治験データの設計・解析・解釈を担う要の存在です。新薬開発の複雑化や国際共同治験の増加に伴い、日本国内でも統計解析職の需要は年々高まっています。
本記事では、製薬会社への転職を目指す際に押さえておきたいポイントと必要スキルを、実務経験者の視点から整理します。自分もCROから外資系の製薬会社に転職した経験がございますので、その経験を共有できればと思います。
製薬会社での生物統計家の役割
製薬企業での統計解析職は、CRO(開発業務受託機関)やアカデミアでの経験を基盤に、より戦略的かつ責任の大きい業務を担います。
- 治験計画の立案支援
試験デザイン、サンプルサイズ設定、ランダム化計画などを策定。 - 解析計画書(SAP)の作成
ICH E9やE9(R1)に準拠した解析計画を作成。 - データ解析と結果解釈
SASやRでの実装、統計的推論、臨床的意義の評価。 - 規制当局対応
PMDA、FDA、EMAなどへの申請資料作成や照会事項対応。
統計知識だけでなく、臨床開発や規制要件への深い理解が不可欠となってきます。
転職時に重視されるポイント
業務経験
- 治験経験:Phase I〜IIIのいずれかで解析経験があると有利。
- 国際共同治験:英語での会議・文書作成経験が評価対象。
専門知識
- 統計学の基礎〜応用:生存時間解析、混合効果モデル、バイオマーカー解析など。
- 規制ガイドライン理解:ICH E9(R1)、E3、E6(R2) 等。特にEstimand Frameworkの理解は近年必須化。
コミュニケーション能力
- 海外拠点との会議での英語発表・議論スキル。
- 医師や臨床開発チームに統計的示唆をわかりやすく伝える力。
最新の統計学の知識や規制ガイドラインについて常にアンテナを張って、自主的に勉強していく姿勢や経験も面接では聞かれましたので、意欲的な知識の習得(学会への参加や自主的な勉強)をしていることをアピールすることは重要かと思います。
転職活動の進め方
自己分析とキャリア整理
- 自分の強み(例:国際共同治験経験、特定領域の専門知識)を明確化。
- 職務経歴書では**「成果」と「役割」**を具体的に記載。
業界研究
- 製薬会社ごとの開発領域・パイプラインを把握。
- 海外本社系と国内資本系で文化や業務範囲が異なることを理解。
ネットワーキング
- 就職サイトを活用した採用担当・現職者との接点作り。
- 学会(日本計量生物学会など)や勉強会での交流。
面接で評価されるポイント
英語力の実演:ケーススタディや自己紹介で自然な英会話ができるか。
統計的課題の説明力:専門外の面接官にも理解できる表現力。
過去事例の具体性:試験デザインや解析課題をどう解決したか。
主体的に知識を高めようとしているか、自社だけではなく外部の視点も取り入れようとしているかを確認するために、外部のタスクフォースに参加した経験なども確認されました。もしそのような経験があるならば、その経験も評価される可能性がございます。
キャリアアップの展望
製薬会社の生物統計家は、社内統計リーダーやグローバル統計部門へのキャリアパスが開かれています。さらに、データサイエンスやリアルワールドエビデンス(RWE)解析、AI/機械学習との融合など、新たな領域への拡張も可能です。

- 左から右へ:経験年数や責任範囲の拡大に伴う昇格イメージ
- 上方向:マネジメント志向(チームリーダー → グローバル統計部門責任者)
- 下方向:専門性深化・横展開(データサイエンス統合スペシャリストなど)
まとめ
製薬会社の統計解析職は、統計知識・規制理解・コミュニケーション力の三拍子が求められる高度専門職です。転職成功の鍵は、自分のスキルを業界ニーズに結び付け、明確にアピールすること、最新のガイドラインや業界動向を継続的にキャッチアップする姿勢が、採用後の活躍にも直結します。