生物統計家の業務として、統計解析を行ったり、試験デザインの検討を行う業務があります。その中で、統計解析ソフトを使って行うことで解析を効率に行うことができます。そこで、今回は生物統計家に必要なスキルとなる統計解析ソフトウェアについて何がよくつかわれているのかを紹介し、それらを勉強する際のおすすめの書籍を紹介していこうと思います。これから生物統計家を目指していこうとする人や、勉強していこうと思っている人は参考にいただければ幸いです。
主要な統計解析ソフトウェア
SAS(Statistical Analysis System)
SASは、製薬業界やCRO(Contract Research Organization)で広く使用されている商用ソフトウェアです。特に臨床試験においては、ICH E9やCDISC標準に準拠した解析が求められるため、SASの使用が事実上の業界標準となっています。
- 臨床試験に特化した機能が豊富(PROC MIXED、PROC GLMなど)
- FDAやPMDAなどの規制当局が提出データにSAS形式を要求することが多い
- 大規模データの処理に強く、安定性が高い
- マクロ機能により複雑な処理の自動化が可能
- ライセンス費用が高額
- GUIが限定的で、基本的にコードベースで操作する必要がある
- 学習コストが比較的高い
R
Rはオープンソースの統計解析環境で、学術研究から業務利用まで幅広く活用されています。豊富なパッケージと柔軟な可視化機能により、探索的データ解析や機械学習にも対応可能です。
- 無償で利用可能
- ggplot2などの高度な可視化ツールが充実
- CRANを通じて最新の統計手法が迅速に利用可能
- コミュニティが活発で情報が豊富
- 商用サポートが限定的
- 大規模データの処理においてはSASに比べて安定性に劣る場合がある
- パッケージの互換性や更新による不具合が発生することがある
Python
Pythonは汎用プログラミング言語ですが、統計解析や機械学習に特化したライブラリが充実しており、近年では生物統計の分野でも利用が拡大しています。
- 統計解析だけでなく、データ収集・前処理・機械学習まで一貫して対応可能
- Jupyter Notebookによるインタラクティブな解析が可能
- Rと同様に無償で利用可能
- 統計解析に特化した機能はRやSASに比べて限定的
- 医薬品業界ではまだ標準的な解析ツールとしての採用は少ない
- ライブラリの選定やバージョン管理に注意が必要
JMP
JMPはSAS社が提供するGUIベースの統計解析ソフトウェアで、視覚的なデータ探索に強みがあります。研究者や非統計専門職にも使いやすい設計が特徴です。
- GUI中心で直感的な操作が可能
- データの可視化と探索的解析に優れる
- SASとの互換性がある
- 高度な統計解析には限界がある
- ライセンス費用が必要
- 業界標準としての採用は限定的
ソフトウェア選定のポイント
生物統計家が統計解析ソフトウェアを選定する際には、以下の観点が重要です
- 業務領域との適合性:臨床試験ではSAS、探索的解析ではRやJMPが適しています
- 規制対応:提出データの形式や解析手法が規制要件に合致しているか
- コストと導入環境:ライセンス費用や社内インフラとの整合性
- 習得のしやすさ:チーム内での教育・運用体制
個人的なおすすめ書籍
ここからは、個人的におすすめの書籍を紹介していこうと思います。自分が扱ってきたのがSASとRですので、それらが中心となることをご了承ください。



まとめ
生物統計家にとって、統計解析ソフトウェアは単なるツールではなく、専門性を支える基盤です。SASのような業界標準から、RやPythonのような柔軟性の高い環境まで、それぞれの特徴を理解し、目的に応じて使い分けるスキルが求められます。今後のキャリア形成においても、複数のツールに精通することは大きな強みとなります。そのため、実際に業務や勉強した統計解析を様々な統計解析ソフトウェアで実装してみることは良い勉強となるかと思います。