ICH E12「降圧薬の臨床評価に関する原則」をわかりやすく解説

記事の目次
Toggleはじめに
高血圧治療薬は、世界中で最も広く使われる薬剤のひとつです。
そのため、新しい降圧薬を承認する際には、安全性・有効性を厳密に評価するための国際的な基準が必要になります。
今回紹介する ICH E12「降圧薬の臨床評価に関する原則」 は、まさにそのためのガイドラインです。この記事では、専門的な内容をできるだけ噛み砕き、図解を交えながらポイントを整理します。
ガイドラインの位置づけ
ICH E12は、従来の日本の降圧薬ガイドラインを国際基準に合わせて改訂したものです。
特に、以下のICHガイドラインと密接に関連しています。
- E1:長期投与薬の安全性評価
- E4:用量反応関係の検討
- E6:GCP(臨床試験の実施基準)
- E9:統計的原則
- E10:対照群の選定
つまり、ICH E12は「降圧薬に特化した臨床評価の総合ガイドライン」と言えます。
有効性評価の基本
収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)の両方が重要
以前はDBPが主要評価項目でしたが、現在はSBPの重要性が強調されています。特に高齢者では収縮期高血圧が多く、SBPの改善が予後に直結するためです。
試験対象集団の考え方
降圧薬の臨床試験では、多様な背景を持つ高血圧患者を含めることが求められます。
含めるべき患者
- 軽症〜中等症の本態性高血圧
- 収縮期高血圧
- 高齢者(75歳以上も含む)
- 合併症(糖尿病、冠動脈疾患など)があっても、治療薬が評価に影響しなければ可
原則として除外される患者
- 小児(別途試験が必要)
- 二次性高血圧
- 妊娠高血圧
薬物動態(PK)・薬力学(PD)試験
PK試験
- 健康成人で必須
- 高血圧患者でも実施
- 腎障害患者では必須
- 肝障害患者は薬物特性に応じて検討
PD試験
- 血行動態
- 腎機能
- 神経体液性因子
これらは原則としてプラセボ対照で行います。
降圧効果の評価方法
主要評価項目
トラフ時(次回服薬直前)の血圧変化量
→ 最も薬効が弱まるタイミングでの効果を評価するため。
試験デザイン
短期試験(4〜12週間)では、以下のデザインが推奨されます。
- A:固定用量 vs プラセボ
- B:任意漸増 vs プラセボ
- C:強制漸増 vs プラセボ
- D:固定用量の用量反応試験
- E:上記に実対照薬を追加
ABPM(日内変動測定)
ABPMは以下の点で有用です。
- ピーク・トラフの評価
- 24時間の降圧持続性
- T/P比(トラフ/ピーク比)の算出
T/P比は50%以上が望ましいとされますが、柔軟に解釈してよいとされています。
用量反応試験
用量反応関係を明確にするため、プラセボ+少なくとも3用量が推奨されます。
- 最小有効用量
- 効果が急激に増加する領域
- 最大有効用量
標準治療薬との比較
新薬の位置づけを明確にするため、実対照薬との比較試験が重要です。
ただし、分析感度を確保するために以下の工夫が必要です。
- プラセボ群を設ける
- 試験終了時にランダム化治療中止(プラセボ切替)を行う
長期試験
長期安全性の評価には、6ヶ月〜1年のデータが必要です。
ICH E1では1,500例が目安ですが、降圧薬は広く使われるため、より多くの症例が望まれます。
併用療法と配合剤
併用療法
高血圧治療では併用が一般的なため、併用時の効果・安全性評価が重要です。
配合剤の評価方法
- 要因試験(Factorial Study)
複数用量の組み合わせを比較し、反応曲面を描く。 - 単剤で効果不十分な症例を対象とした試験
実臨床に近い形で配合剤の有効性を評価できます。
まとめ
ICH E12「降圧薬の臨床評価に関する原則」は、新規降圧薬の有効性と安全性を国際的基準で評価するためのガイドラインである。評価の中心は収縮期・拡張期血圧の両方で、特に収縮期血圧の重要性が強調される。試験対象は軽症〜中等症の本態性高血圧を中心に、高齢者や合併症を持つ患者も含め、多様な集団で検証することが求められる。薬物動態・薬力学試験に加え、短期試験ではプラセボ対照のランダム化比較試験が必須で、トラフ時の血圧変化を主要評価項目とする。ABPMによる24時間の血圧変動評価も推奨される。さらに、用量反応関係の明確化、標準治療薬との比較、長期安全性の確認が重要である。併用療法や配合剤については要因試験などで体系的に評価し、実臨床に近い形での有効性を検証する。本ガイドラインは、降圧薬を安全かつ効果的に開発するための包括的な枠組みを提供している。











