はじめに

フェーズ3(Ph3)臨床試験は、医薬品承認申請に直結する最重要ステージです。
この段階では、大規模な患者集団を対象に、有効性と安全性を最終的に検証することが目的となります。
そのため、試験デザイン、データ品質、解析計画、TFL(Tables, Figures, Listings)の作成など、統計解析担当者の役割は極めて重要です。
この記事では、被験者が組み入れられてから DBL に至るまでの流れを、統計解析担当者の視点から丁寧に解説します。

Ph3 試験の全体像

まずは、フェーズ3試験の全体フローを俯瞰してみましょう。

[試験開始前]
├─ プロトコル作成
├─ 統計解析計画(SAP)作成
├─ EDC構築 / CRF設計
└─ プログラム雛形作成(TFL Shell)

[被験者組み入れ後]
├─ 登録・割付
├─ データ収集(EDC)
├─ 中間データレビュー
├─ 品質管理(DM・統計)
└─ 解析プログラム作成

[試験終了後]
├─ データクリーニング完了
├─ DBL(Data Base Lock)
├─ 主要解析実施
└─ CSR(Clinical Study Report)作成

統計解析担当者は、試験開始前から DBL 後の CSR 完成まで、ほぼ全工程に関与します。

被験者組み入れ後の流れ(統計解析担当者の視点)

ここからは、被験者が組み入れられた後の実務フローにフォーカスします。

被験者組み入れ(Enrollment)

被験者が組み入れられると、EDC(Electronic Data Capture)にデータが入力され始めます。

統計解析担当者の主な業務
  • EDC 仕様の最終確認
  • CRF(症例報告書)項目と解析変数の整合性チェック
  • ランダム化リストの管理(統計チームが担当することが多い)
  • データフローの確認(EDC → SDTM → ADaM → TFL)

データ収集とクリーニング(Data Management と連携)

被験者の来院ごとにデータが入力され、DM(データマネジメント)がクリーニングを進めます。

統計解析担当者の役割

● SDTM/ADaM 仕様の作成・レビュー

  • SDTM(標準化データ)
  • ADaM(解析用データセット)

特に ADaM は統計解析担当者の責任範囲であり、解析に必要な変数の定義を明確にします。

● クエリ発行のサポート

DM が主体ですが、統計側からも以下のような指摘を行います。

  • 異常値の検出
  • 来院スケジュールの逸脱
  • 主要評価項目の欠測の確認

● データレビュー会議(Data Review Meeting)

DM・統計・メディカルが定期的に集まり、データ品質を確認します。

中間解析・データモニタリング(必要に応じて)

Ph3 試験では、以下のような中間解析が行われることがあります。

  • 安全性モニタリング(DSMB)
  • 有効性の中間解析(早期終了の判断など)
統計解析担当者の業務
  • 中間解析用の SAP(Statistical Analysis Plan)補足文書作成
  • 中間解析用の ADaM/TFL 作成
  • ブラインド保持のための 独立統計家との連携

SAP(統計解析計画書)の作成

SAP は、統計解析担当者の最重要ドキュメントです。

SAP に記載する内容の例
  • 解析集団(FAS, PPS, Safety Set)
  • 主要/副次評価項目の解析方法
  • 欠測値処理方法
  • 感度解析の計画
  • サブグループ解析
  • 多重性調整
  • TFL の仕様(Shell)

SAP はプロトコルの統計章をより詳細化したもので、DBL 後の解析は SAP に完全準拠して実施されます。

TFL(Tables, Figures, Listings)作成

TFL は、最終的に CSR に掲載される解析結果です。

統計解析担当者の業務
  • TFL Shell(雛形)の作成
  • 解析プログラム(SAS/R)の作成
  • QC(Quality Control)プログラムの作成
  • 図表のレイアウト調整

TFL Shell は SAP と密接にリンクしており、解析の再現性と透明性を担保する重要な文書です。

データクリーニング完了〜DBL まで

試験終了後、DM がデータクリーニングを完了させ、統計解析担当者は以下を実施します。

Pre-DLB(DBL 前作業)

  • 最終 SDTM/ADaM の作成
  • TFL プログラムの最終 QC
  • データ不整合の最終チェック
  • ブラインド解除の準備

DBL(Data Base Lock)

DBL は、データが完全に確定し、以降は一切変更できない状態にすることを意味します。DBL の瞬間から、統計解析担当者は 主要解析(Primary Analysis) に着手します。

DBL 後の解析と CSR 作成

DBL 後は、統計解析担当者の最も忙しい期間です。

● 主要解析の実施

  • 主要評価項目の解析
  • 副次評価項目の解析
  • 感度解析
  • サブグループ解析

● TFL の最終版作成

  • CSR に掲載する図表を最終化
  • QC を実施し、解析の再現性を保証

● CSR(Clinical Study Report)への反映

  • メディカルライターと連携し、解析結果を文章化
  • 統計解析担当者は CSR の統計章(Section 14)を担当

まとめ

フェーズ3臨床試験では、被験者が組み入れられてから DBL(Data Base Lock)に至るまで、膨大なデータが収集され、品質管理が行われ、最終的な解析へと進んでいきます。その過程で、統計解析担当者は試験の根幹を支える重要な役割を担います。
まず、被験者の組み入れ後は、EDC を通じてデータが入力され始め、統計解析担当者は CRF 項目と解析計画の整合性を確認しつつ、SDTM/ADaM 仕様の策定やデータレビューに関与します。データマネジメントと連携しながら、異常値や欠測の確認、クエリ対応、データレビュー会議などを通じて、解析に耐えうるデータ品質を確保していきます。
試験の進行に応じて、必要に応じて中間解析や安全性モニタリングが行われ、その際には SAP の補足文書作成や中間解析用データセットの作成など、統計解析担当者の専門性が求められます。並行して、最終解析に向けた SAP(統計解析計画書)の詳細化、TFL Shell の作成、解析プログラムの準備が進められます。
試験終了後は、データクリーニングの最終段階に入り、統計チームは ADaM の最終化、TFL プログラムの QC、データ不整合の最終チェックなど、DBL に向けた重要な作業を行います。DBL が完了すると、データは固定され、主要解析が正式に開始されます。統計解析担当者は、主要評価項目・副次評価項目の解析、感度解析、サブグループ解析などを実施し、TFL を最終化します。
最終的には、解析結果を CSR(Clinical Study Report)に反映し、統計章の執筆やメディカルライターとの連携を通じて、承認申請に必要な科学的根拠を整えていきます。
このように、統計解析担当者は、試験デザインからデータ品質管理、解析、報告書作成まで、臨床試験の全工程に深く関与する存在です。フェーズ3試験は規模が大きく複雑ですが、統計解析担当者の計画性と技術力が、信頼性の高いエビデンスを生み出す基盤となっています。

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tomokichi
外資系製薬会社で生物統計家として働ている1児のパパ。生物統計家とは何か、どのようなスキルが必要か、何を行っているのかを共有していきたいと思っております!生物統計に関する最新情報を皆様にお届けすべく、日々奮闘中です。趣味は筋トレ、温泉巡り、家族と散歩。