はじめに

医薬品の臨床試験に関わる人なら、一度は耳にする「ICH E6」について、GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施基準)を国際的に統一したガイドラインであり、治験の質と被験者保護を支える“根幹”ともいえる文書です。
しかし、

  • 「GCPって結局何を求めているのか」
  • 「ICH E6(R2) と ICH E6(R3) の違いは?」
  • 「リスクベースドアプローチって何?」

といった疑問を持つ方も多いはずです。

この記事では、図解を交えながら、ICH E6の全体像と改訂ポイントをわかりやすく整理します。

ICH E6(GCP)とは何か?

ICH(International Council for Harmonisation)は、日米欧の規制当局と製薬業界が協力し、医薬品開発の国際的な基準を作る組織です。
その中でE6は「臨床試験の実施基準(GCP)」を定めたガイドラインとなります。

ICH E6(GCP)の目的
  • 被験者の権利・安全・福祉の保護
  • 臨床試験データの信頼性の確保
  • 国際的に調和した基準で効率的な医薬品開発を実現

つまり、「人を守り、データを守り、世界で通用する治験を行うためのルール」
といえます。

ICH E6 の構成(R2 時点)

ICH E6(R2) は以下のような構成になっています。

ICH E6(R2) の構成
  1. 目的
  2. 用語の定義
  3. IRB/IEC(倫理審査委員会)
  4. 研究者(Investigator)
  5. 依頼者(Sponsor)
  6. プロトコルと治験実施計画書
  7. 治験薬の取扱い
  8. 必要な記録と文書

特に重要なのは 4章(研究者)5章(依頼者)です。治験の実務はこの2つの章にほぼ集約されています。

ICH E6(R2) の特徴:リスクベースドアプローチ

R2 の最大の特徴は、リスクベースドアプローチ(RBM/RBQM) の導入です。

リスクベースドアプローチとは?

従来:すべての項目を一律にチェック

R2:重要なリスクに集中して効率的に管理

従来のモニタリング
────────────────────────────
□ 全症例SDV(Source Data Verification)
□ 全項目チェック
□ 大量の訪問・紙ベースの確認
────────────────────────────

リスクベースドモニタリング(RBM)
────────────────────────────
■ 重要リスクに集中
■ 中央モニタリングの活用
■ データドリブンな品質管理
────────────────────────────

これにより、

  • コスト削減
  • データ品質の向上
  • 重要リスクへの集中

が可能となりました。

ICH E6(R3) の方向性:より柔軟で、より科学的に

現在ドラフト段階の ICH E6(R3) は、R2 をさらに発展させた内容になっています。

R3 のキーワード

  • Quality by Design(QbD)
  • リスクベース品質管理(RBQM)
  • 多様なデータソース(RWD/RWE)
  • デジタル技術の活用
  • 柔軟で適応的な治験デザイン

特に注目すべきは Quality by Design(QbD)であり、

  • 試験の目的を明確化
  • 重要なデータとプロセスを特定
  • リスクを事前に評価
  • 試験デザインにリスク対策を組み込む

つまり、「後から品質をチェックするのではなく、最初から品質が作り込まれた試験を設計する」という考え方です。

研究者(医師)に求められること

ICH E6 は研究者に多くの責任を課しています。

研究者の責務

・被験者の安全確保
・同意説明と同意取得
・プロトコル遵守
・治験薬の管理
・記録と報告
・有害事象の報告

※特にインフォームドコンセントは最重要項目です。

依頼者(Sponsor)に求められること

依頼者は治験全体の品質を担保する責任を持ちます。

依頼者の責務

・品質管理システムの構築
・モニタリング(RBM/RBQM)
・治験薬供給と管理
・データマネジメント
・安全性情報の収集と報告
・監査(Audit)

R2/R3 では特に 品質管理システム(Quality Management System) が強調されています。

ICH E6 が求める「品質」とは何か?

ICH E6(R2) 以降では、品質の定義が明確になっています。

品質とは、「被験者の安全・権利・福祉を守り、試験結果の信頼性を確保するために重要な要素に焦点を当てること」

つまり、
“すべてを完璧にする”のではなく、“重要なことを確実にする”
という考え方です。

ICH E6 の改訂が求められる背景

近年の医薬品開発は大きく変化しています。

  • デジタル技術(ePRO、eConsent、DCT)
  • リアルワールドデータ(RWD)
  • 遺伝子治療など複雑な治療法
  • 国際共同治験の増加

従来の GCP では対応しきれない部分が増えたため、より柔軟で、科学的で、現代的なガイドラインが必要になったというわけです。

まとめ

ICH E6(GCP)は、臨床試験における「被験者保護」と「データ信頼性」を国際的に確保するための基準です。研究者・依頼者・倫理委員会の責務を明確化し、治験の質を担保する仕組みを示しています。R2 ではリスクベースドアプローチ(RBM/RBQM)が導入され、重要なリスクに集中した効率的な品質管理が求められました。さらに R3 では Quality by Design(QbD)を中心に、試験設計段階から品質を作り込む考え方が強調され、デジタル技術やリアルワールドデータなど新しい環境にも対応する柔軟なガイドラインへ進化しています。ICH E6 は、現代の臨床試験を支える“品質の設計図”といえる存在です。

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tomokichi
外資系製薬会社で生物統計家として働ている1児のパパ。生物統計家とは何か、どのようなスキルが必要か、何を行っているのかを共有していきたいと思っております!生物統計に関する最新情報を皆様にお届けすべく、日々奮闘中です。趣味は筋トレ、温泉巡り、家族と散歩。