ICH E16 をやさしく理解する:バイオマーカー適格性確認ガイドラインのポイント解説

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医薬品開発では、患者さんの状態をより正確に把握したり、副作用のリスクを予測したりするために「バイオマーカー」が広く使われるようになってきました。
しかし、バイオマーカーを規制当局に提出する際、「どのようにデータをまとめればよいのか」「どんな情報が必要なのか」が分かりにくいという声も多くあります。
そこで登場するのが ICH E16 ガイドラインです。これは、バイオマーカーの“適格性確認(Qualification)”のための資料を、どのように整理し提出すべきかを示した国際基準です。本記事では、E16 のポイントをわかりやすく整理していきます。
ICH E16 とは何か?
ICH E16 は、ゲノムバイオマーカーを中心としたバイオマーカーの適格性確認のための資料作成方法を示すガイドラインです。
文書では次のように述べられています:
「バイオマーカーが生物学的過程、反応または事象を適切に反映し得ると判断され…その使用が支持されるという評価結果を踏まえた結論である」
つまり、“このバイオマーカーは、こういう目的で使ってよい”という科学的根拠を示すための枠組みを提供するものです。
- バイオマーカーの種類や測定方法は多様で、資料のまとめ方がバラバラになりがち
- 国や地域ごとに形式が異なると、審査の効率が下がる
- 国際共同治験が増える中で、共通フォーマットが求められている
E16 は、こうした課題を解決し、国際的に統一された資料様式を提供することを目的としています。
ガイドラインの適用範囲
E16 の対象は主に ゲノムバイオマーカーですが、文書では次のように述べられています:
「ゲノム以外のバイオマーカーにも原則は適用可能」
つまり、
- 遺伝子型(SNP、CNV)
- 遺伝子発現
- タンパク質
- イメージング
など、幅広いバイオマーカーに応用できる考え方です。
また、非臨床・臨床のどちらにも適用可能で、探索段階から承認後まで幅広く使えます。
バイオマーカー適格性確認の基本的な考え方
E16 では、バイオマーカーの用法(Context of Use:COU)を明確にすることが最重要とされています。
■ 用法(COU)に含めるべき要素
- 一般的な使用領域
- 非臨床/臨床
- 薬理、毒性、有効性、安全性など
- 具体的な用途
- 患者選択(除外基準、層別化)
- 作用機序の評価
- 用量設定
- 有効性・安全性のモニタリング
- 副作用リスクの予測
- 重要な条件
- 使用する医薬品の種類
- 測定方法(遺伝子型、mRNA、イメージングなど)
- 対象集団(人種、年齢、疾患ステージ)
- 試料の種類(血液、組織など)
■ 用法の例
- Kim-1 / Clu(ラット):腎毒性の非臨床バイオマーカー
- CYP2C9 多型:代謝能の違いによる用量調整
- HLA-B*1502:重篤な皮膚障害のリスク予測
これらの例からも分かるように、バイオマーカーは「何に使うか」を明確にしないと評価できないという点が強調されています。
提出資料の構成(CTD に準拠)
E16 の大きな特徴は、CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)形式に沿って資料を整理する点です。
■ セクション構成(E16 → CTD 対応)
| E16 セクション | 内容 | 対応する CTD |
| 1 | 行政情報 | モジュール1 |
| 2 | 概要(総括評価+データ概要) | モジュール2 |
| 3 | 品質 | モジュール3 |
| 4 | 非臨床 | モジュール4 |
| 5 | 臨床 | モジュール5 |
セクション2:総括評価のポイント
文書では、総括評価に含めるべき内容が詳細に示されています。
■ 2.2.1 総括評価の構成
① 緒言
- 対象疾患
- バイオマーカーの定義(SNP、CNV、遺伝子発現など)
- 使用の理論的根拠
「疾患および実験条件、バイオマーカーの定義…利用の理論的根拠を含む」
② バイオマーカーの用法(COU)
前述の一般領域・具体的用途・重要事項を明確に記載。
③ 方法と結果の概要
- 試験デザイン
- 再現性
- 統計解析
- 有用性と限界
- 図表によるまとめが推奨される
④ 結論
- 未解決の問題と今後の計画
- バイオマーカーのベネフィット
- 試験で直面した課題と対応
セクション4・5:非臨床・臨床データ
非臨床・臨床の試験報告書では、次のような情報が求められます。
■ 必須項目
- 試験に参加した被験者数
- バイオマーカー測定が可能だった人数
- 後ろ向き/前向きの相関解析
- 測定方法の妥当性
- 結果に影響する変数(食事、運動、測定スケジュールなど)
文書では次のように述べられています:
「重要な変数を特定すべきである(例:技術基盤、食事、運動など)」
■ ゲノムバイオマーカー特有の項目
- 候補遺伝子の選定基準
- DNA 収量、標本の週齢
- 配列解析や遺伝子発現解析の方法
E16 がもたらすメリット
- 国際的な資料の統一
CTD に沿った形式でまとめるため、日米欧で同じ資料を使い回せる。 - 審査の効率化
形式が統一されることで、規制当局の評価がスムーズになる。 - スポンサーの負担軽減
複数地域向けに資料を作り直す必要がなくなる。 - バイオマーカー活用の促進
適格性確認の枠組みが整うことで、医薬品開発におけるバイオマーカー活用が進む。
まとめ
ICH E16 は、医薬品開発で利用されるバイオマーカーの「適格性確認(Qualification)」のために、どのような資料を作成し提出すべきかを示した国際ガイドラインです。バイオマーカーは副作用リスクの予測や患者選択、用量設定などに役立つ一方、データのまとめ方が統一されていないと審査が複雑になります。そこで E16 は、資料の構成を CTD 形式に合わせ、背景、用法(COU)、試験方法、結果、限界、今後の課題を整理して記載することを求めています。用法には使用領域、具体的用途、測定方法、対象集団などを明確に示す必要があります。非臨床・臨床データでは、再現性、統計解析、標本の取り扱いなどを一貫した形式でまとめます。E16 により、国際的な資料の統一、審査の効率化、バイオマーカー活用の促進が期待されます。











